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LIGHTBULBのMTO/MTMを解説!革靴のフィット感に悩むすべての人へ

みなさんは『LIGHTBULB(ライトバルブ)』というビスポークシューズブランドをご存知でしょうか。
最近、同ブランドのパターンオーダー(MTO/MTM)が、革靴のフィッティングに悩む人や海外の有名靴ブロガーなどから注目され始めています。
かくいう私もLIGHTBULBファンの一人。
外反母趾で満足できる革靴に出会えることが滅多にない足なのですが、受注会場で試したゲージ靴の履き心地がとても良く、後にMTMでオーダーしました。
オーダー記事はこちら↓
そんなLIGHTBULBですが、始動してまだ日が浅いためか調べても知りたい情報に辿り着けないことが多く、もどかしさを感じていました。
そこで本家に全面協力をいただき"LIGHTBULBのMTO/MTMオーダーをまとめた記事"を主観も交えたユーザー目線で作成しました。
LIGHTBULBでオーダーを検討する際の一助になれば幸いです。
【序】LIGHTBULBの強みは履き心地
まずはLIGHTBULBを簡潔に紹介します。
義肢装具士で多くの臨床経験を持つ足のスペシャリスト、野口達也氏とオーダー靴底付けのスペシャリスト、外林和洋氏の2人がプロデュースするビスポークシューズブランド。
足と靴、それぞれに造詣が深い2人がタッグを組むブランドコンセプトは"フィッティング1st"。
当初はビスポークのみでしたが、2023年よりMTO/MTMがローンチされて現在に至る新鋭ブランドです。
参照:義肢装具士とは(公益社団法人 日本義肢装具士協会)
フィッティングに対するコンセプトはブランドの個性(=売り)といえますが、LIGHTBULBが優れた履き心地を実現するために採用した個性は以下の2つだと思います。
「木型(ラスト)」と「底付け(製法)」
この2つを本題に入る前に解説させてください。
MTO/MTMオーダーの詳細を早くお読みになりたい方はこちらでジャンプできます。
木型:トータルコンタクトラスト
聞き慣れない響きですが、LIGHTBULB・野口氏が自ら設計した木型の名称です。
現役の義肢装具士である野口氏が医療現場で培った知識や経験がラスト設計に活かされ、歩行時の足に掛かるストレスを抑える設計になっています。
私のような素人の目でも分かりやすい特徴が、立体的な底面形状です。
こんな感じっす! pic.twitter.com/WBFWQQsvu1
— LIGHTBULB 野口達也 (@LIGHTBULBbyN) 2021年1月30日

私は初めてこの動画を見たときはとても魅了されました
野口氏はSNSで底面設計についてこんな投稿をしています。
本来の足の動きを邪魔すると、爪先が当たったり、歩いてて不快感が発生したり、単純に歩きにくかったりします。
底面設計されている場合はサポート力も変わり、骨格を支えたり、局所的な圧力を分散出来るので疲れにくくなったり痛みが軽減したり通常の革靴より機能性を上げられます。
2024.6.12 Xより(一部抜粋)
底面設計と歩行運動を取り入れたラストをパターンオーダーで展開しているのは、他社ではあまり見ない強みといえます。
トータルコンタクトラストについてさらに詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
木型設計のコンセプトについて
(LIGHTBULBのnoteより)
底付け:ダイレクトグッドイヤーウェルテッド製法(DGY)
こちらもあまり聞かない名称ですが、LIGHTBULBでは標準で採用している製法です。
他のブランドですと、Arch Kerry(アーチケリー)の一部製品や、三陽山長では「フレキシブルグッドイヤーウェルテッド製法」の名称で一部製品に採用されているのが見受けられます。
一般的なグッドイヤーウェルテッド製法との違いは「リブテープ」の代わりに中底に直接(ダイレクトに)切り込みを入れてリブをつくり掬い縫いするのがDGYの特徴です。




リブテープというパーツが無くなることで、履き始めの返り(底の屈曲性)の硬さが解消されます。
切り込みを入れる中底はハンドソーン(手縫い)とほぼ同じ約5mm厚の革を使っているので、耐久性に影響がないのもメリット。
履き心地を例えるなら"機械式のハンドソーンウェルテッド製法"という感じです。
手縫いに引けを取らない履き心地を低コストで体感してほしいというLIGHTBULBの気概を感じます。
国内でDGY製法を採用しているところは少ないので、ここも強みのひとつです。
ましてや底面設計ラストを使用した機械縫いの靴となると、他に類を見ないブランドとしてさらに注目されることでしょう。
オーダーの種類
LIGHTBULBの強みを知っていただいたところで、本題のMTO/MTMの解説に移ります。
オーダー構成は、MTO・MTMのパターンオーダー系が2つにビスポークを合わせた3つです。
すべてのオーダーにトータルコンタクト設計されたラストが使用されています。
MTO(Made To Order)
ベースラストの補正が必要ないパターンオーダー
ゲージ靴を履いてフィット感に問題ない場合は、MTOがベストです。


ラスト:General、Narrow
トウシェイプ:ラウンドのみ
仮合わせ:なし
納期:4ヶ月~
MTM(Made To Measure)
個人の測定値に合わせて調整(モディファイド)されたラストで製作するパターンオーダー
ゲージ靴での適合が難しい場合は、ラストの調整ができるMTMを推奨します。


ラスト:MTOをベースにモディファイド
トウシェイプ:ラウンド、スクエア
仮合わせ:あり(3~4ヶ月後)
納期:8ヶ月~
仮合わせの流れは以下の通りです。
- 自分の足に合わせて調整されたラストでつくられた仮靴が届く
- 仮靴を1ヶ月ほどかけて試し、履き心地や気になる点を検証
- 気になる箇所をフィードバック
- 相互で情報が共有できたら仮靴を返却
ポイントは仮靴の検証に最大約1ヶ月間費やせること。
普段の環境で長い期間検証できるから「仮合わせ当日は問題なかったのに…」というリスクを抑えることができます。
上記3のフィードバックは、専用フォームからの質問や指示に従って回答する形式です。
- 問診への選択・回答
- 履き心地が気になる箇所の画像添付
- 仮靴を履いた状態で足踏み動画を撮影
その後の最終確認で問題なければ本靴の製作がおこなわれます。
ビスポーク(Bespoke)
ほぼ制約のないフリーダムなフルオーダー
デザインやディテールにこだわりがある人はビスポークをどうぞ。
ラスト:自由
トウシェイプ:自由
仮合わせ:あり
納期:12ヶ月~
仮合わせの内容はMTMと同じです。
価格を表にまとめました
価格 | MTO | MTM | Bespoke |
---|---|---|---|
短靴 ダイレクトグッドイヤー | 121,000円から | 231,000円から | 不可 |
短靴 フルハンドソーン | 231,000円から | 341,000円から | 440,000円から |
短靴 ノルウィージャン | 176,000円から | 286,000円から | 不可 |
付属品 | 靴箱・シューズバッグ | ||
シューツリー | 33,000円(ラステッド2ピース) |
デザインとディテール
外観や仕様についての内容をまとめました。
デザイン
9種類から選べます。
- ギブソンダービー
- 3アイレットダービー
- 5アイレットダービー
- パンチドキャップトウオックスフォード
- アデレードオックスフォード
- セミブローグオックスフォード
- フルブローグオックスフォード
- ロングヴァンプオックスフォード
- プレーントウオックスフォード
画像:LIGHTBULB オンラインカタログより



新デザインを鋭意開発中
製法
3種類から選べます。
標準仕様はダイレクトグッドイヤーウェルテッド製法、フルハンドソーンウェルテッド製法とノルウィージャン製法にはアップチャージが発生します。
ダイレクトグッドイヤーウェルテッド製法
先述した解説を参照ください。




(補足)ソールはペイントやコバの張り出し、仕上げが数種類あって好きな組み合わせで選択できます。
フルハンドソーンウェルテッド製法


10分仕立てともいわれる、伝統的かつ究極の手縫い製法。
手仕事でしか出せない仕上がりは別格のオーラが漂います。
レザーソールのみ対応
アップチャージ
+110,000円(税込)
ノルウィージャン製法
縫い目がコバだけでなくアッパーの側面に2つ見えるのが特徴で、ダブルソールと広めのコバによるボリューム感は、ダービーやカントリーなデザインとの相性が良いです。


- 中底に切り込みを入れたリブとアッパーを手縫い(写真①)
- アッパーとミッドソールを手縫い(写真②)
- ミッドソールとアウトソールを機械縫い(写真③)
チェーンステッチ仕様にすると、写真①の縫い目がチェーンステッチに変更されます。
アップチャージ
シングルステッチ:+55,000円(税込)
チェーンステッチ:+71,500円(税込)
アッパー
標準仕様のスタンダードレザーと、アップチャージが発生するオプションレザーを用意。自分が使用したい革を持ち込むことも可能です。
スタンダードレザー
Weinheimer Leder(ワインハイマー)
・ボックスカーフ
黒/濃茶/キャメル/ネイビー
・シボ
黒/濃茶
Mastrotto(マストロット)
・スエード
20カラー
オプションレザー
Horween Leather Co.(ホーウィン)
・シェルコードヴァン
黒/バーガンディ
VARIED(バリード)
・猪
黒/濃茶/キャメル/ナチュラル
持ち込み
革によっては対応できない場合もあります。
事前に相談しておきましょう。
ソール
標準仕様はレザーですが、ダイレクトグッドイヤーウェルテッド製法とノルウィージャン製法はラバーへの変更が可能。






ラバーソールは、Vibram2055 イートンソール(ダイナイトタイプ)のほか、HARBORO リッジウェイソールも選べます。
アップチャージ
Vibram 2055:+5,500円(税込)
HARBORO リッジウェイ:+8,800円(税込)
有料オプション
ディテールに関する有料オプションは表立って提示していませんが、相談すると対応してくれることが多いです。
私のオーダーを例にすると、メダリオンの形状や先芯素材、オークバークソールの変更に対応してくれました。
出自がビスポークブランドなので懐は深いです。気軽に聞いてみることをおすすめします。
試し履きする方法
とりあえず試し履きしたい、という方は次の方法から選択できます。
ご自身のタイミングやニーズで検討してください。
取り扱い店舗
東京・浅草橋の『MULTI LAB.』でゲージ靴の常設をしています。
試し履きとMTOオーダーが可能です。
※ただしオーダーは既存デザインのみ、カスタムは不可
受注会
下記の2つは定期開催しています。
- 東京:年2回【春・秋】(MULTI LAB.)
- 大阪:年1回【春】(靴フェスOsaka)
試し履きはもちろん、MTO(カスタム含む)、MTM、ビスポークのオーダーが可能です。
※上記以外でスポット開催されるケースもあり。
リモート
Webから申し込む「遠隔採寸」を利用してゲージ靴を借りることができます。
- 遠隔採寸の申し込みをする
- 測定システム『iD-FOOT』を使用し、足の動画を撮影する
- 足踏み動画の撮影とアンケートの入力をする
- 2と3のデータを送信する
送信した足の測定データは、野口氏の義肢装具士としての知見が加わり診断された結果、自分の足に最も適合するMTOゲージ靴の案内がきます。
続いて、郵送で届いたゲージ靴の試し履きです。
- ゲージ靴で最大1ヶ月間フィッティングを検証(外履き可能!)
- フィードバックのアンケート回答を実施し、ゲージ靴を返却
直近の受注会が未定の場合や、遠方に住んでいる人には嬉しい選択肢です。
このサービスは有料(税込3,080円+返却時送料)ですが、一般的な試し履きのように付近を少し歩いただけで履き心地の結論を出す必要はありません。
じっくり検証したうえで、フィット感に納得がいかないならオーダーしなければいいので、結果的にお財布にも優しいシステムです。
MTO(カスタム含む)、MTM、ビスポークのオーダーが可能です。
Q&A
主な疑問を抽出しました。プルダウンすると回答がご覧になれます。
ゲージ靴のサイズ展開は?
General、Narrow共に「23.5cm~28.0cm」
0.5cm刻みで全10サイズを用意しています
ゲージ靴や仮靴の貸出し期間は?
約1ヶ月間です
MTOラストは調整ができないの?
部分的に当たる箇所があれば、盛り補正対応が可能です
料金は1箇所につき5,500円(税込)
仮靴の仕様は?
仮靴はこのようなスペックで製作されます
- デザイン:本靴と同じ
- 色:黒
- 革:グレードを落とした別の革
- 底付け:セメント接着されたハーフラバー
仮靴を再利用したい
仮靴のフィッティングに概ね満足、納得していれば仮靴に本底を縫い付け、使用できる状態にすることが可能です
製法はハンドソーンウェルテッド9分仕立て、底はレザーかラバーの選択ができます
価格:55,000円~(税込)
レディースの製作は可能?
MTMやビスポークは現在でも対応可能
女性用MTOラストを開発中です
海外からオーダーは可能?
海外在住の方はリモートで対応可能です
ただし手続きや送料のコスト面などからオーダーはMTMとビスポークのみとしています
iD-FOOTの使用方法が知りたい
スマートフォンとA4印刷したガイドシートを使用します
詳しい測定方法はiD-FOOT公式サイトで確認してください
LIGHTBULBが目指す未来
運営者のひとり、外林氏(=よめせん氏)にDMでお話をうかがう機会をいただきまして、
- どうすれば一人ひとりに最適な靴を(世界規模で)離れていても提供できるか
- 日本の靴産業を盛り上げるために何ができるか
といったことを、常に考え野口氏と話し合っているそうです。
あくまでも私見なので見当違いかもしれませんが、
- 遠隔によるオーダーはすでに実施され海外にも靴を届けることができるけれど、より良い提供方法が見つかれば常にアップデートを続けていく。
- LIGHTBULBの活動に賛同する、靴に携わる人との連携を深め、最適な靴をつくり届けるシステムを構築する。
- そうして日本で靴に携わる人の土壌が整えば、靴業界全体の活性化に繋がる
という未来を描いているのではないかと思いました。
靴に携わる人との連携について、野口氏はSNSでこんな発信をしています。
LIGHTBULBの取り組みに賛同する「製甲できる人」や「底付けできる人」(プロアマ問わず)が沢山いて、お客さんが好みの人を組み合わてオーダーできたら面白いんじゃないか
2023.6.20 Xより(概略)
これが実現できたら、オーダーする新たな楽しみが増えて面白いでしょうね。
革靴が嗜好的なアイテムとなりつつある近年では越えなければならないハードルは多いですが、日本の靴産業の存続のためにも達成していただきたいです。
私も微力ながら、いちユーザーとして力添えできればと思います。
【結】LIGHTBULBがおすすめの人
ご覧いただきありがとうございました。
今回の記事作成にあたり感じたことは、お二人の間柄は単なる「ラストを設計する人」と「靴をつくる人」の関係ではなく、どちらかが一方的にリーダーシップを発揮して引っ張るわけでもない。
互いを尊敬し、共にアイデアを出し合い、志を分かち合える『パートナー』なんだな、と思いました。
そんなお二人から生まれるドレスシューズが、世界中に評価されることを願わずにはいられません。
最後に総括として、LIGHTBULBはこんな方々におすすめです。
- 既製靴のフィット感に悩んでいる人
- 今までにない履き心地を求めている人
- 外出するのが億劫な人
- 使いたい革を持ち込みたい人
- 仮靴も活用したい人(MTO除く)
- 野口氏、外林氏に惚れた人
今後の活動やバリエーション展開にますます期待が高まるLIGHTBULBは、要注目のビスポークシューズブランドです。
記事作成にあたり、幾度の質問や画像の使用許可などLIGHTBULBのお二人には多大なご協力をいただき、心より感謝申し上げます。